目的
妊娠期間中に腰痛、恥骨部痛を訴える症例は数多く見られる。多くは比較的軽症のもので、湿布薬などで経過観察しているうちに、分娩終了後自然治癒するが、一部の症例では痛みにより日常生活が著しく制限され、分娩後も軽快しないで整形外科的治療を要することもある。近年、重症の妊産婦の腰痛、恥骨部痛の原因として、骨盤輪を形成する仙腸関節および恥骨結合のズレによるものが注目されており、治療として腸腰関節および恥骨結合を支持する腰腹部固定帯(骨盤支持ベルト)の装着が有効であると報告されている。今回我々は、妊娠後期に重症の恥骨部痛を生じ、歩行困難となった症例に対して腰腹部固定帯(トコちゃんベルト)を使用し、良好な経過が得られた1例を経験したので報告する。
対象
症例は31歳、OGOP。身長160cm、非妊時体重49kg。既往歴、家族歴に特記すべきことはない。無月経を主訴に来院。妊娠と診断され、以後順調に経過していた。妊娠
29週頃から恥骨部痛を訴え始め、安静にて経過観察していたが、31週頃より恥骨部痛が耐えきれないくらいとなり、歩行困難も併発したため腰腹部固定帯(トコちゃんベルト)を装着させた。
方法
トコちゃんベルトは、腰腹部を巻く部分と上前腸骨棘と大転子との間を経由させ、恥骨結合上縁で巻く部分との2本のベルトより構成されている。腰腹部を巻く部分は軽く締めるだけであるが、恥骨結合の部分はしっかりと締める必要がある。この固定帯と通常のコルセットとの違いは、通常のコルセットが腰椎を中心とした脊椎を補正するのに対し、トコちゃんベルトは両側の腸骨翼から恥骨結合にかけて支持性のあるベルトで固定することにより、骨盤輪をしっかりと把持するという点にある。
成績
トコちゃんベルトの装着により、恥骨部痛は著明に軽減し、歩行困難も改善された。この効果は分娩直前まで持続し、妊娠39週5日に自然陣発、正常経腟分娩となった。児は3056gの男児でApgar
scoreは9点であった。分娩終了直後より軽度の腰痛を訴えたため、トコちゃんベルトを再度装着させたところ、腰痛は軽減した。患者の希望により、産褥1ヶ月間装着させたが、歩行困難、下肢静脈瘤などの副作用は認められなかった。
結論
妊娠中は各種ホルモンの影響により、靭帯のゆるみが生じやすくなる。妊産婦にみられる腰痛、恥骨部痛もその影響により仙腸関節や恥骨結合にゆるみを生じ、骨盤輪が変形することによるといわれている。今回試用した腰腹部固定帯(骨盤支持ベルト、トコちゃんベルト)は、本症例において腰痛、恥骨部痛の改善に極めて有効であると思われた。今後、数多くの症例に対する追試が望まれる。
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